ボスニアの野外博物館エトノ・アヴリヤ・マチュコヴァツ — 昔のバルカンの村へ
昔のバルカンの暮らしと文化を、この村ほど鮮やかに見せてくれる場所はありません。古い機械、鍛冶屋の店先、彫刻の施された家々、色とりどりの鎧戸、少し傾いた屋根——細部がぎっしり詰まっていて、中に入ると今が何年なのか忘れてしまいそうになります。

エトノ・アヴリヤ・マチュコヴァツとは
マチュコヴァツ(Mačkovac)は、ボスニア・ヘルツェゴビナ北東部、トゥズラ(Tuzla)から車で30分ほどの場所にある私設の野外博物館です。正式名称は「Etno avlija Mačkovac」。「アヴリヤ」はトルコ語からボスニア語に入った言葉で「中庭」を意味します。まさにその通りで、施設全体が大きな農村の庭のように造られており、古い家、納屋、工房、水車小屋が小さな橋や階段、石畳の小道でつながれています。ナビや道路標識で探すときは、このラテン文字の名称を使ってください。日本でいえば白川郷や飛騨の里のような野外の村落博物館を、ずっと小さく、もっと手作り感たっぷりにした場所を想像すると近いかもしれません。

ここは国立博物館ではなく、ある一家の手によるものです。創設者は地元住民のレフィク・ハリロヴィッチ(Refik Halilović)さん。2010年から古いボスニアの家屋や道具、生活用品を集め続けています。建物の一部は周辺の村から丸ごと運ばれ、この場所で組み立て直されました。現在のコレクションは3万点以上——16〜18世紀のオスマン時代の銃から、4千個を超えるユーゴスラビア時代のバッジまで揃っています。
村を歩く — 中庭と工房
ここの主役は個々の展示品ではなく、ディテールの密度です。どの壁も棚も窓辺も何かで埋まっています。玉ねぎとにんにくの束、銅のコーヒーポット、水玉模様のホーロー鍋、分銅の代わりに植木鉢を載せた古い秤。
小道沿いには屋根付きの露店が並び、昔の「チャルシヤ」——バルカンで職人と商人の集まる町の一角をそう呼びました——の商店街のようにしつらえられています。どの小屋にも番号と通り名の看板が付いていて、本物の村さながらです。





ショーケースもガラスもなし——すべてが建物の前にそのまま置かれています
敷地の奥には木工の工房があり、木の車輪や作業台、道具でいっぱいです。これは飾りではなく、実際に使われている工房で、その数は10以上にのぼります。


家の中へ
家の中には、19世紀から20世紀初頭のボスニアの住まいの内装が再現されています。壁沿いの低いソファ「セチヤ」、床の手織り絨毯「キリム」、刺繍のカーテン、銅の器が並ぶストーブ。


クルアーンは開いたまま——まるで住人がちょっと席を外しただけのよう
東ヨーロッパの田舎の家を訪ねたことがある人なら見覚えのある品も多いはず。鋳鉄のアイロン、石油ランプ、真空管ラジオ。一方で、純粋にボスニアならではの品もあります。銅のコーヒーポット「ジェズヴァ」、注ぎ口の長い水差し「イブリク」、床に座って食事をするための六角形の食卓「ソフラ」。


70年ほど前の家は、こんな姿でした
中庭で
建物の間にはスグリの茂みが育ち、古い秤を使った吊り鉢には多肉植物。すべてが「博物館」ではなく「暮らしの場」に見えます。


ここでは花を何にでも植えます——古い秤にだって



オスコヴァ川に架かる橋と水車小屋
施設はオスコヴァ川(Oskova)のすぐほとりに建ち、建物の一部は水の上にせり出しています。川には木の橋が架かっていますが、行き止まりで、先にあるのは小屋が一軒だけ。その代わり、橋の上からは小さな滝になった堰の眺めが楽しめます。敷地内では2基の水車が稼働中——家屋と同じく周辺の村から移築され、修復されたものです。



水辺の小屋の中も、同じように昔の内装の部屋になっています。低いテーブル、キリム、窓辺の銅の水差し。




門、ハート、木彫りのディテール
マチュコヴァツでは、扉や門をじっくり見てみてください。木のアーチのひとつには「Neka je hairli」という看板が掛かっています。ボスニアの祝福の言葉で、「良いことがありますように」といった意味です。木戸にはハートの透かし彫り、扉には呼び鈴が登場する前に使われていた鉄の輪のドアノッカーが付いています。



ハートはこの村の木彫りで一番よく見るモチーフ
扉や窓枠は色あせたターコイズに塗られ、ところどころ剥げています。時間が自然にそうしたのか、少し手を貸したのかは分かりません。


半地下のひとつには、レンガのアーチ天井と車輪のシャンデリアのある小さな部屋が隠れています。この後ご紹介するレストランの一部です。

郷土博物館 — 3万点の昔の品々
一棟まるごと郷土博物館(zavičajni muzej)になっています。コレクションには過去200年の古書や文書が約1,600点、オスマン時代から第二次世界大戦までの懐中時計が25個、婚礼の花冠が150点。



玉ねぎが古い電話機の隣で干されていても、誰も気にしません


昔はこのひょうたんで水筒を作っていました
レストラン — 銅の蓋のチョルバ
施設にはボスニアの伝統料理のレストランが併設されています。ホールの内装は博物館の家々と同じ。彫刻入りの木の仕切り、キリム模様のクッション、古いランプ、壁の賞状。
私が注文したのは「ベゴヴァ・チョルバ」。子牛肉と野菜、オクラの入った濃厚なスープで、ボスニア料理の中でも特に有名な一品です。名前は「ベイのスープ」という意味——オスマン時代、地方の領主をベイと呼び、この料理はごちそうとされていました。脚付きの金属の器に入り、銅のドーム形の蓋をかぶせて、自家製パンと一緒に運ばれてきます。

名物料理は「イスポド・サチャ」——炭をかぶせた金属のドームの下でじっくり調理する、バルカン伝統の蒸し焼きです。子牛肉や仔羊肉を数時間かけて調理するので、驚くほど柔らかく仕上がります。地元の川で獲れたマスの炭火焼きもあります。メイン料理はおよそ10〜20 KM、つまり5–10ユーロ(約900〜1,800円)、チョルバは約5 KM(2.5ユーロ、約450円)。兌換マルク(KMまたはBAM)はボスニアの通貨で、ユーロに固定されています——1ユーロ ≈ 1.96 KM。



実用情報
- 名称: 民俗村マチュコヴァツ(正式名称 — Etno avlija Mačkovac)
- 住所: マチュコヴァツ村、バノヴィチの町から5 km、トゥズラ県、ボスニア・ヘルツェゴビナ
- GPS: 約 44.38, 18.50 — ナビでは「Etno avlija Mačkovac」で検索
- 営業時間: 毎日 9:00〜22:00
- 入場: 無料
- 食事: メイン料理 10〜20 KM(5–10ユーロ、約900〜1,800円)、スープ 約5 KM(2.5ユーロ、約450円)
- 所要時間: 見学に2〜3時間 + 食事
- ビザ: 日本国籍の方は短期滞在ならビザなしでボスニア・ヘルツェゴビナに入国できます
- Google Maps: Etno avlija Mačkovac
行き方
施設はマチュコヴァツ村にあり、バノヴィチ(Banovići)の町から5 km、トゥズラからは南へ約35 kmです。一番便利なのは車での移動です。
- トゥズラから: ジヴィニツェとバノヴィチ経由で約45分。バノヴィチを過ぎると、オスコヴァ川沿いにコニュフ山(Konjuh)方面へ向かう細い舗装路になります。
- サラエボから: 約130 km、オロヴォとバノヴィチ経由で2時間半。
- セルビアから: ノヴィ・サド方面から車でボスニアに入るなら、マチュコヴァツを旅程の最初の目的地にすると便利です。ビエリナとトゥズラを通るルートで、ちょうど通り道になります。
- 日本から: イスタンブール経由またはウィーン経由でサラエボへ飛ぶのが一般的で、そこからレンタカーやバスで向かいます。
- 車がない場合: バノヴィチまでバス(トゥズラから定期便あり)、そこからタクシーで数マルクほどの距離です。
道のり自体も気持ちのいいものです。最後の数キロは深い森の中を走ります。施設はコニュフ保護景観区とズラチャ渓谷へ向かう途中にあるので、山歩きと組み合わせて訪れるのも簡単です。
旅のヒント
- 開店直後か平日の訪問がおすすめです。週末は近隣一帯から家族連れが食事に訪れ、レストランのホールが混み合うことがあります。
- 時間には余裕を持って。説明だけ読むと「1時間で見られそう」に思えますが、ディテールに見入っているとあっという間に時間が経ちます。
- 現金のマルクを用意しましょう——ボスニアの田舎ではクレジットカードが使えない場所もあります。
- 山への旅と組み合わせるのがおすすめ。コニュフ保護景観区とズラチャ渓谷の入口まではここから数キロです。
- 夏は虫除けをお忘れなく——施設は森の中の川沿いにあります。
おわりに
ボスニアには民俗村がたくさんありますが、その多くは「昔風」に新しく建てられたものです。マチュコヴァツが違うのは、ここにあるものがほぼすべて本物だということ。消えゆく村々から運ばれてきた家、実際に使われていた道具、実際に食事に使われていた器。バノヴィチが当初の予定に入っていなかったとしても、メインルートから寄り道する価値のある場所です。

施設はバノヴィチの町から5 km、トゥズラから35 kmの場所にあります。トゥズラから車で約45分。車がない場合はバノヴィチまでバス、そこからタクシーです。
入場は無料です。地元レストランでの食事と組み合わせるのがおすすめ——メイン料理は10〜20 KM、5–10ユーロ(約900〜1,800円)です。
施設は年中無休、毎日9:00から22:00まで開いています。平日と午前中が一番静かで、週末は食事に来る地元の家族連れで賑わいます。
中庭と博物館をのんびり見て回ると2〜3時間、それにレストランでの食事の時間が加わります。
子牛肉と野菜の濃厚なスープ「ベゴヴァ・チョルバ」、炭をかぶせた金属のドームで蒸し焼きにする「イスポド・サチャ」の肉料理、そしてマスの炭火焼きです。
はい、特にバルカンの伝統的な暮らしに興味があるなら。本物の移築家屋と3万点のコレクションを持つ、ボスニアで最も真正な民俗村のひとつです。なお、日本国籍の方は短期観光ならビザなしで入国できます。コニュフ山やズラチャ渓谷と組み合わせて訪れるのが便利です。